『スターリング・ラード』(2001年/アメリカ・ドイツ・イギリス・アイルランド合作)監 督 ジャン=ジャック・アノー

syoka2005-01-02

 

舞台は第二次世界大戦。対ドイツ軍との冒頭の戦闘シーン,迫力こそ『プライベート・ライアン』には劣るが,荒涼と広がる戦場の寒々しさが印象的だ。ひと目見ただけで,明らかに形勢は不利。しばし,呆然とその光景を眺める主人公たちは,次の瞬間には,その戦闘の中へいやおうなく,投げ込まれる。

驚いたのは,ソ連軍が,自分の軍の兵隊を人間扱いしていない描写。敵軍に乗り込む時,支給されるのは,2人にたった1挺の銃。「1人がやられたら,あとの1人が銃を拾って撃て」という主旨だ。銃をもらえなかった1人は,前を行くもう1人の仲間の陰に隠れながら,後ろを走るしかない。銃器の数からしても,敵との差は歴然としている。最初から完全な,負け戦だ。敵のあまりに激しい攻撃に,恐れをなして退却するソ連兵。ソ連軍は,敵前逃亡する兵士を許さず,見せしめのために,撃ち殺す。


アメリカ映画の中のアメリカ軍なら,絶対にあり得ない描写だ。なんといっても,たった1人の兵士(しかも二等兵)を救うために大勢の兵士を最前線へ行かせ,そのために,何人もの兵士が命を落とす,というナンセンスなストーリーを,ヒューマニズム溢れた感動作にしてしまう国だ。(『プライベート・ライアン』を見た帰り,ワタシはこの作品をベタ褒めする恋人と喫茶店で大喧嘩をしてしまった。)


それに比べて,この作品のソ連軍の冷徹なコト。でも,それがかえって,リアリティがあった。戦場って,戦争って,こうなのかもしれない,と思う。


キャストもヨカッタが,中でも主役のジュード・ロウ。『リプリー』の金持ちのボンボン役は,好きになれなかったが,学の無い,素朴で優しい田舎の青年がピタリとはまっていた。眼が美しく,細く通った鼻筋。冷たい印象を与える顔立ちなのにそう感じさせないのは,やはり演技が巧いからだろう。


クールな視点の,救いの無い戦争映画かと思ったが,最後の最後に,ちゃんと救済が用意されていた。とってつけたかのような,微かなハッピーエンド。それでも,どん底の気分で帰路につかずに済んだ。ワタシの中では『フルメタル・ジャケット』に並ぶお気に入りの戦争映画に昇格。