『バグダット・カフェ』(1987年西ドイツ)監督/パーシー・アドロン

syoka2005-05-02



砂漠の真ん中にある,埃まみれのひなびたモーテル兼カフェ『バグダッド・カフェ』。女店主の黒人女ブレンダは,ろくでなしの亭主と,わがままな子供たちに振り回され,イライラと腹立たしいばかりの毎日を送っていた。憂鬱顔の従業員に,変わり者の滞在客たち。砂ぼこりのほかは何もない,つまらない風景。そんなある日,旅行者らしい太ったドイツ女・ジャスミンがこの店に現れて・・・



パーシー・アドロン監督の奇跡のようにファンタジックな映画。冒頭のやや前衛的な映像に,「これはハズしたかな?」と思う。ところが。この映画のヒロインの1人・ジャスミンが砂漠の一本道をスーツケースを引きずりながら歩き出すスローモーションの映像に,ふいにかぶさる主題歌『コーリング・ユー』。ここでもう,ワタシはやられてしまう。


荒涼としたどこまでも広がる黄色い砂漠の風景。ジリジリと照りつける灼熱の太陽とその光線。砂埃をたてて,1本道を長距離トラックが走り抜ける。しかし,夕暮れの赤い赤い夕空は途方もなく美しい。その夕空に弧を描くブーメラン。さびれた給水塔。朽ちた看板。砂を撒き散らして突風が吹きぬける。画面を観ているワタシの身体も,その風を感じるよう。


ストーリーは,単純といえば単純で,どこか寓話的とも言える。断片的に挿入される非現実的な夢のような映像もアクセントが効いていて,ユーモラスだ。この映画全体に「魔法」がかかっているかのように,最初は不気味で醜くさえ見える2人のヒロインたちが,だんだんとチャーミングに美しく見えてくるから,不思議。そして,そう感じる頃には,ワタシたち観客も,すっかり『バグダッド・カフェ』の魔法(マジック)にかかってしまっている。


クスクス笑いながらも,最後には心が綺麗に透きとおり,必ず優しい気持ちになる。疲れた時も,必ず元気になる。極上のビタミン剤のような愛らしい映画。全編に流れる音楽も素晴らしい。


主題歌『コーリング・ユー』は,ホリー・コールがカバーして世界的に大ヒットした曲だが,ワタシは,ジェベッタ・スティールの唄うオリジナルのこちらの曲のほうが好き。まるで,世界の果てまで連れてゆかれそうな,旋律。。。