『戦場のピアニスト』(2002・ポーランド)監督・製作 ロマン・ポランスキー

syoka2004-02-26



これは,ホロコーストの映画だ。ユダヤ人のピアニストが,ナチスのユダヤ人迫害から懸命に逃れ,サバイバルして生き抜く,物語。


1939年,ナチス・ドイツがポーランドに侵攻。物語は始まる。日増しに凄惨をきわめるユダヤ人の迫害。ゲットー(ユダヤ人居住区)での,すさまじい生活。ナチスによる無差別な殺戮シーンが,恐ろしくリアル。ゲットーの路上に,当たり前のように転がっている死体の数々。飢えや伝染病が,蔓延する。


夕飯時,ナチスがある家庭に踏み込み,全員を連行する。車椅子の老人は,自分で立つことができない。車椅子ごと老人を抱えあげ,高層階のベランダから無言で投げ捨てるドイツ兵たち。家族たちは,その場で銃殺される。理由は明かされない。それを向かいのアパートの窓から見ている,主人公と,その家族。動悸が激しくなる。強制労働のさなか,気まぐれのように,数人を選び,地面に伏せさせたかと思うと,頭部を銃で打ち抜くドイツ将校。絶滅収容所へ送られる時に「どこへ行くのですか」と問うただけで,銃殺される女性。


主人公は,運良く,生き延びた。数々の偶然と,数人の人々の勇気ある行動のおかげで。そして,友人や隣人たちが,命を落としてゆくのを,ただ,見続ける。


ポーランド人の知人に与えられた,隠れ家であるアパートの一室。「決して音を立ててはいけない」息を殺し,死んだように生き続ける主人公。部屋には,アップライト・ピアノがあった。そっと蓋をあけ,鍵盤のわずか上で細い指を動かし,ピアニストは空想の中で音楽を奏でる。そのシーンで,ワタシは初めて涙があふれる。


1944年,ワルシャワ蜂起。街は戦場となった。一面の瓦礫におおわれた,悪夢のような街の光景。変わり果てた姿で飢えた主人公は,隠れ住んでいた廃墟で,ドイツ軍将校に見つかってしまう。職業はピアニスト,と答えた彼は,ピアノを弾くよう,命じられる。そこで2年ぶりに主人公が本物のピアノで奏でる,ショパン。そのピアノは,音楽を愛する将校の胸を打ち,主人公は,命を救われる。ドイツ軍将校もまた,故郷では,家族を愛する,温厚な教師だった


ワルシャワ開放。彼はついに生き延びた。再び,ピアニストとなり,コンサートで拍手を浴びる日々。彼を助けたドイツ軍将校は,戦犯捕虜収容所で命を落とす


監督であるポランスキーは,幼少の頃,実際にゲットーで生活し,母親を収容所で亡くしている。トラウマが強すぎて,ホロコーストの映画は今まで作ることができなかった,と言う。この淡々とした,描写のリアルさ,無言の悲しみ,憤りは,作り物ではない。そして,この話自体が,実話だという事実


戦争は,いけない。絶対に,何があっても。感動などと簡単には言えない。「こんな事が,2度とあってはいけない」。人が人を傷つけてはいけない,殺してはいけない


主人公を演じた,エイドリアン・ブロディ。役作りのために10キロの減量をし,ピアノの猛特訓を受けたという。作中の演奏シーンは,すべて自身が弾いているものだ。ドイツ軍将校の前で弾く,4分あまりのショパンの演奏は,正真正銘,ピアニストの演奏だ。その「役者魂」に,脱帽


原題は『THE PIANIST』